脳科学が出した答えは「テスト」だった——星友啓×久保田智大 対談

前回の記事では、「頑張っているのに結果が出ない勉強法」の正体を掘り下げました。インプット偏重、受動的、やった気になりやすい——その3つの落とし穴と、対極にある「思い出す」というキーワード。

では、その「思い出す」を具体的にどう勉強に組み込めばいいのか。今回はスタンフォード大学・オンラインハイスクール校長の星友啓先生と、駿台予備学校・英語科の久保田智大先生に、**「最強の勉強法」**についてじっくり伺いました。

星先生の答えは、驚くほどシンプルなものでした。


最強の勉強法は「テスト」

——星先生、直球でお聞きします。一番良い勉強法とは何ですか?

星先生:一番良い勉強法は、「一番思い出せること」。つまり**「テスト」**です。

——テスト、ですか。テストというと、結果を測るためのもの、というイメージが強いんですが。

星先生:まさにそこなんです。受験の文脈だと、テストって「合格の確率を測るモノサシ」として見られがちですよね。そうすると、プレッシャーや不安につながってしまう。これがテストの「負」の側面です。

でも、テストの一番良い側面は、実は**「学習ツール」**だということなんです。教科書やノートを見ずに、自分の頭だけで思い出すという行為——これこそが最強の勉強法なんですよ。模擬試験のような大きなものも、単語帳の赤シートを使ったセルフテストのような小さなものも、全部「学習としてのテスト」です。

——テストは評価のためではなく、学ぶためにある、と。

星先生:そうです。テストを「怖いもの」から「自分を伸ばすツール」に捉え直すだけで、勉強の仕方がガラッと変わってきます。


テストは「受ける」だけで終わると、もったいない

——久保田先生は、普段の指導の中でテストをどう位置づけていますか?

久保田先生:本当に星先生のおっしゃる通りで、日常の学習にいかにテストを組み込めるかが大事だと思っています。赤シートで隠してみたり、フラッシュカードを使ってみたり。日々の勉強の中に「思い出す仕掛け」を入れていくわけです。

あと、模試の話をすると——偏差値や判定を見て一喜一憂する気持ちは、もちろんわかります。それは仕方ないことだと思います。でも、そこで終わってしまうと、学習の機会をまるごと失っているんですよね。

——というと?

久保田先生:模試って、本番に近い緊張感の中で問題を解いているわけじゃないですか。その中で「思い出そうとして思い出せなかったもの」——これが、実は最高の学びの糧になるんです。

私は浪人生だった頃、間違えた問題をノートにまとめて何度も復習する**「模試ノート」**を作っていました。自分が間違えた問題だけが集まっているわけですから、世界に一冊だけの参考書ができるんですよ。しかも、まとめる過程で「なぜ間違えたのか」を考えるし、後から見返す時には「思い出す」作業を繰り返せる。これが一番学力向上に効きました。

——判定を見て落ち込むのではなく、間違えたところを”宝の山”として使う、ということですね。

久保田先生:そうです。模試の判定はあくまで一つの指標であって、それよりも大事なのは「自分が何をできなかったか」を把握して、そこを埋めていくことなんです。


なぜ模試で急に伸びる人がいるのか——「インターリービング」の効果

——星先生、模試のたびに急に伸びる生徒さんがいますよね。あれはなぜなんでしょうか。

星先生:いくつか理由はあるんですけど、一つは今お話しした**「テスティング効果」**ですね。テスト形式で思い出すこと自体が、強力な学習になっている。

もう一つ大きいのが、**「インターリービング」**というものです。

——インターリービング?

星先生:「編み込み」とか「ミックス」という意味なんですけど、模試っていろんな単元がごちゃまぜに出てきますよね。これが実はすごく効果的なんです。

たとえば、一つの単元だけを集中してやる勉強法だと、「今やってるのは分詞構文だ」と分かっている状態で問題を解くことになるので、ある程度適当に覚えていても解けちゃったりするんですよ。でも模試では、どの単元から出ているのか分からない状態で「これ何だったかな」と深く考えなければいけない。

——単元が分かっていない状態で解くからこそ、理解が深まる、と。

星先生:そうなんです。「あれ、これは関係代名詞だっけ、分詞構文だっけ」と判別するプロセス自体が、脳にものすごい負荷をかけてくれるんですね。一つの単元だけをブロックでやるよりも、いろんな単元が混ざった状態で練習する方が、理解が格段に深まるということが分かっています。


結果を「判定」で終わらせない——成長マインドセット

——テストの活用法がだんだん見えてきましたが、それでもやっぱり、模試の結果を見て落ち込んでしまう人は多いと思います。そのあたりのメンタル面について、何かアドバイスはありますか?

星先生:ここで知っておいていただきたいのが、スタンフォードのキャロル・ドゥエック教授が提唱した**「成長マインドセット」**という考え方です。

人間の能力はトレーニングによって大きく変われる——つまり**「やればできる」というイメージを持つことですね。これが成長マインドセット。逆に、「自分には才能がないから変わらない」と決めつけてしまうのが「固定マインドセット」**です。

——その違いが、勉強の成果にも影響するんですか?

星先生:大きく影響します。テストや模試の結果を単なる「判定」として捉えると、固定マインドセットに陥りやすいんです。「C判定だった、自分はダメだ」で終わってしまう。

でも、そこで振り返りをして、「ここが弱かったんだ、次はここを直せばいいんだ」と考えることで、成長マインドセットが育まれていくんですね。実は、この考え方の違いだけで学習効率が2倍くらい変わるとも言われています。

——2倍ですか。同じテストを受けても、その後の捉え方で差がつくんですね。

星先生:そうです。テストの結果は「自分の現在地を知るためのもの」であって、「自分の限界を示すもの」ではない。この捉え方の違いが、本当に大きいんですよ。


「できないところ」が見えることの価値

——久保田先生は、テストの結果を踏まえた学習について、現場ではどう指導されていますか?

久保田先生:やっぱり、自分の「できないところ」を把握して、そこを優先的にやるっていうのが受験の基本だと思うんです。受験って時間が限られていますから、何でもかんでもやるわけにはいかない。だからこそ、自分の弱点がどこにあるのかが見えていることは、ものすごく大事なんですよ。

模試やテストの結果を使って「ここが足りない」と把握できたら、それだけで勉強の方向性が定まるわけです。闇雲にやるよりも、よっぽど効率がいい。

——逆に言えば、「できないところ」が見えないまま走り続けている状態が一番危ない、ということですね。

久保田先生:その通りです。頑張っているのに伸びない子の多くは、自分が何ができていないのかを把握しないまま、全部を同じ力で勉強してしまっている。得意な単元も苦手な単元も同じように時間をかけてしまう。限られた時間の中では、それだと伸びしろの大きいところに手が回らないんです。

星先生:そこにもう一つ加えると、「できなかったことが、できるようになった」という体験は、先ほどの成長マインドセットに直結するんですよね。「ああ、ここができるようになったんだ」と実感できると、「じゃあ次もやってみよう」というやる気につながっていく。できなかったことが可視化されていて、それが一つずつ塗りつぶされていく感覚——これが、勉強を続けるモチベーションとして一番強いと思います。


インプットとアウトプットの、ちょうどいいバランス

——ここまでのお話で、「思い出す」「テスト」「間違いを活かす」ということが見えてきました。一方で、「じゃあインプットはどうすればいいの?」と疑問に思っている方もいると思うんです。アウトプット寄りがいいのは分かったけど、インプットの工夫はありますか?

星先生:いい質問ですね。いくつかあるんですけど、まずアウトプットの方から一つ。前回の記事で「要点に絞って思い出す」という話がありましたよね。これ、実はすごく理にかなっていて。

「要点だけ思い出すと、要点以外のことが定着しないんじゃないか?」と心配になるかもしれないんですけど、実は要点だけでも思い出そうとすると、その周辺の情報も一緒に記憶に定着しやすくなることが分かっているんです。

——全部を思い出そうとしなくていいんですか。

星先生:全部思い出そうとすると時間もかかるし、なかなかできなくて挫折してしまう。だから「3つポイントがあった。その3つだけ思い出してみよう」でいいんです。そうすると、その3つに紐づいている周辺のことも、脳の中で一緒に強化されていくんですよ。

——インプット側の工夫は?

星先生:**「チャンキング(Chunking)」**というものがあります。チャンクは「塊」という意味ですね。

たとえば、10桁のランダムな数字を覚えようとすると、もう大変じゃないですか。でも、年号の語呂合わせみたいに、「いいくに……」——あ、今は変わったんでしたっけ(笑)。ともかく、既に知っているものを使って、バラバラの情報を塊にするのがチャンキングです。

塊にしてインプットしておくと、後で取り出す時にも塊ごと出てきてくれるので、思い出しやすくなるんですよ。だから、新しい情報に出会った時には「自分が既に知っているものと、どう結びつけられるか」を考えながらインプットすると、定着率がぐっと上がります。


復習のベストタイミング——「2-3-5-7の法則」

——もう一つ、皆さんが気になっていると思うのが「いつ復習すればいいか」というタイミングの話です。久保田先生から先ほどもその話題が出ていましたが。

久保田先生:そうですね。思い出すのが大事だというのは分かったとして、じゃあそれをいつやるのか。すぐにやるのがいいのか、少し空けた方がいいのか。このタイミングも、実はかなり重要だと思うんです。星先生、いかがですか。

星先生:ありがとうございます。まず前提として、たとえば教科書を今日3回読み直すとか、そういう「同じ日に繰り返す」やり方は、2回目以降ほとんど効果が上がらないことが分かっています。脳に適切な負荷がかかっていないからです。

筋トレと同じで、ものすごく軽いものをいくら繰り返しても、筋肉がつかないのと一緒ですね。簡単な思い出しだと、脳のシナプスの結合が強くならないんです。

——では、どれくらい間を空ければいいんですか?

星先生:最初は24時間後がベストです。これは経験則ではなくて、脳の仕組みに基づいた話なんです。

一度学んだ時、脳の対応するシナプスの結合が一旦強化されて、そこに「ここで学びましたよ」というタグ——印みたいなものがつくんですね。でも、この印は最初はとても弱い。

雪道に例えると分かりやすいんですけど、一回足跡をつけても、雪が降ったらすぐ消えてしまいますよね。でも、少し雪が積もった状態でもう一度そこを踏むと、今度はしっかり固まって消えにくくなる。24時間後というのは、ちょうどその**「少し雪が積もったタイミング」**なんです。

——なるほど。では24時間ごとにずっと復習し続ければいい?

星先生:最初はそうなんですけど、だんだん脳が慣れてきますから、間隔を広げていくんです。具体的には、**「1日→1日→2日→2日」という間隔がいいと言われています。全部足すと6日間。つまり、1日目に学んで、2日目・3日目で思い出して、次は5日目、そして7日目。「2-3-5-7の法則」**ですね。

——ちょっとずつ負荷を上げていく感じですね。

星先生:まさに筋トレと同じです。最初は軽い負荷から始めて、少しずつ重くしていく。そうやって、最終的にはいつでも取り出せる状態にまで持っていくわけです。

久保田先生:これ、英語だったら単語を覚える時にそのまま使えますよね。

星先生:まさにそうですね。単語帳も、見て終わらせちゃう生徒さんって多いと思うんですけど、マーカーで意味を隠して思い出すとか、ちょっとした工夫でいいんです。

面白いのが、同じように単語帳を見ているように見える生徒さんでも、よく観察すると目線が上に上がっている子がいるんですよ。単語帳を見ていないで、上を見て思い出そうとしている。こういう子は、リトリーバルの習慣が自然とついているんですね。

久保田先生:おっしゃる通りです。人間ってどうしても楽な方に流れがちなので、ちゃんと「思い出す」という負荷をかけてあげることが大事なのに、つい見て分かったふりをしてしまう。筋トレでも軽い方に逃げちゃうのと一緒ですよね。


負荷をかけると、むしろ楽しくなる

——ここまでお聞きしていると、「思い出す」ことも「間隔を空ける」ことも、脳に負荷をかけることが大事だ、ということですよね。でも、負荷がかかるということは辛いわけで、続かないんじゃないかと心配になる方もいると思うんです。

星先生:そう思いますよね。でも実は、負荷をかけた方がむしろ楽しくなるんです。

筋トレがめちゃくちゃ好きな人っているじゃないですか。あれと同じ仕組みなんですよ。一旦思い出そうとしてみて、「あ、思い出せた!」っていう感覚——これがものすごく気持ちいいんです。

前回の記事で、やる気には3種類あるという話がありましたよね。その中の**「できた」という達成感**が、こまめに刺激されるんです。小さな「思い出せた!」が積み重なっていくと、だんだん暗記自体が楽しくなっていく。むしろ筋トレにハマる人みたいに、思い出す作業にハマっていく生徒さんもいるんですよ。

久保田先生:そうなんですよね。最初はちょっと辛いかもしれないですけど、「あ、できた」の体験が積み重なると、いつの間にか苦にならなくなっている。むしろ「次も試してみたい」という気持ちが出てくるんです。


模試ノートは「世界に一冊だけの参考書」

——先ほど久保田先生から「模試ノート」の話がありましたが、もう少し詳しくお聞きしてもいいですか。具体的にどうやって作っていたんですか?

久保田先生:やり方自体はシンプルです。模試で間違えた問題をノートに書き出して、なぜ間違えたのかを自分なりに分析して、正しい解き方や考え方をまとめていく。それだけです。

でも、これが効くんですよ。まず、間違えた問題だけが集まっているので、自分の弱点が一冊に凝縮されている。普通の参考書は万人向けに作られていますから、自分がすでにできるところも載っている。でも模試ノートは自分だけの弱点に特化した参考書なんです。

——しかも、まとめる過程で「思い出す」作業が入りますよね。

久保田先生:そうなんです。まとめる時に「なぜ間違えたか」を考える、後から見返す時に思い出そうとする。ここでリトリーバルが何度も繰り返されるわけです。

星先生:模試ノートは本当にいい方法ですよね。「間違えた」というメタ認知がまず入って、それを分析して書き出す過程で深い処理が行われて、後から見返す時にはスペーシング(間隔を空けた復習)も自然とできる。前回お話しした脳科学の原則が、全部入っているんですよ。


受験の「その先」に残るもの

——ここまで「最強の勉強法」について具体的に伺ってきましたが、最後に少し大きな話もお聞きしたいと思います。最近は生成AIや翻訳ツールも発達していますよね。そんな時代に、あえて自分で勉強する意味って何なんでしょうか。

久保田先生:英語を例に言うと、英語をただの「コミュニケーション・ツール」として見たら、AIには勝てないかもしれません。翻訳の精度はどんどん上がっていますから。

でも、言語を学ぶというのは、「思考」を学ぶことでもあるんです。たとえば英語の語順——SVOCのような構造を学ぶことで、日本語とは違う思考の体系を自分の中にインストールできる。これは自分の視野を広げることなんですよ。原文でしか味わえない音の楽しさや、文化のニュアンスを感じられるようになるのも、自分で学ぶからこその醍醐味だと思います。

星先生:全くその通りですね。囲碁のAIが世界チャンピオンに勝っても、みんな囲碁をやめないのと同じです。自分で考えて、苦労して身につけるプロセスで得られる**「自発性」や「達成感」**——これこそが人生の糧になるんです。

それに、生成AIを使いこなす側になるためにも、自分の中に判断の基準となる言語能力や思考力がなければ、AIの出力が正しいかどうかも判断できません。

——受験勉強そのものが、将来の力につながっている、と。

星先生:はい。受験勉強を通して身につけた**「学び方」——ラーニング・ハウ・トゥ・ラーン**ですね——これは、将来社会に出て新しいテクノロジーや環境に出会った時に、自分で学び直してスキルにつなげる力になります。

10代の多感な時期に、受験という一つのプロジェクトに本気で向き合って得られるもの。学力だけじゃなくて、支えてくれたメンター、切磋琢磨した友人との繋がり。こういうものは、30年経っても人生を支えてくれます。私自身がその証拠みたいなもので、30年前に駿台で過ごした経験が、今も自分の中に息づいているんですよ。


まとめ:学んだら、思い出す

——ありがとうございます。最後に、お二人からこの記事を読んでいる方へメッセージをいただけますか。

星先生:今日のポイントはこれに尽きます。「学んだら、思い出す」

ものすごくシンプルなんですけど、非常に重要です。テキストを見ながら、ノートを見ながらではなくて、テキストやノートの助けを借りないで、目を瞑ったり上を見たりして、自分の頭だけで思い出す。これをいかに学習に入れていくか。この一点を意識するだけで、学習の効果は大きく変わってきます

久保田先生:星先生のおっしゃることが、まさにそうなんですけども。僕からは**「報われる努力をしよう」**ということをお伝えしたいです。

「努力は報われる」という言葉はありますけど、あまり無責任なことは言えないとも思っています。みんな一生懸命努力して、その中で合格者が決まってしまうわけですから、受験って残酷な部分もありますよね。

それでも、闇雲に走るのではなくて、ちゃんと報われる形で努力をしてほしい。伴走者と一緒にかもしれませんし、「学んだら思い出す」みたいな科学的なアプローチを踏まえた上でかもしれません。正しい方向を向いて努力すること。同じ努力をするなら、ちゃんと報われる努力をしてほしいと思っています。

——お二人とも、本日は貴重なお話をありがとうございました。

星先生・久保田先生:ありがとうございました。