今回は、駿台予備学校を運営する学校法人駿河台学園の山畔清明専務理事とスタンフォード大学・オンラインハイスクール校長で哲学博士の星友啓先生をお迎えし、「駿台Diverse」の開発背景や日本の教育が抱える課題、そしてこれからの教育のあり方について語っていただきます。

まずは専務理事にお伺いします。星先生に「駿台Diverse」のアドバイザーをお願いした理由を教えてください。

山畔:駿台は長年、難関大学を目指す生徒を志望校合格へ導く予備校として機能してきました。しかし、それは全国的に見ればごく一部の地域や学力層に限定されていた。地方など環境が整わない地域にも質の高い教育を届けたいと考えた時、今の駿台にあるノウハウだけでは多様なニーズに対して十分な教育サービスを提供できないと感じていたため、新しいメソッドを用いた教育を模索し始めました。

その中で星先生の「リトリーバルプラクティス」という手法にたどり着いたのですね?

山畔:その通りです。星先生の知識の定着を図るメソッドはまさに私たちが求めていたものでした。実際にお会いする機会があり、話をお伺いしてとてもワクワクしましたね。それがきっかけで「駿台Diverse」というコンテンツを作り上げ、全国展開していこうと決めました。

「Diverse」という名前に込めた思いについて教えてください。

山畔:ずばり多様性ですね。世界各国ではこの多様性という言葉が叫ばれている中、私は日本の教育だけは画一的なままだと思っているんです。戦後教育を今も続けている結果、脱落してしまう生徒がたくさんいます。
例えば、少子化の中で不登校が増えている。以前はいじめなど極端な例だけでしたが、今は「学校に行ってもつまらない。授業を聞いても無駄だ、楽しくない」、そう感じる生徒が増えて不登校につながるケースも見受けられます。
一方で先生方も30人~40人のクラスで一人ひとりの面倒を丁寧に見る環境が整わない。生徒のニーズも多様化しているのに、教育だけが昔のまま。これが大きな問題だと感じています。もう一つの具体例が英語です。
これだけグローバル化の進む時代にありながら、自信を持って英語でコミュニケーションを取れる生徒は少ない。近隣諸外国では英語を話し、海外で仕事ができる人材が育っていて、海外から資本を呼び込んでいるにも関わらず、日本は閉鎖的なまま。
これをなんとか変えていかねばならないという思いで「Diverse」という名前をつけました。

対談の様子

星先生は「駿台Diverse」の完成形を見てどう思われましたか? 世界の教育のトレンドや日本における教育のギャップについてもぜひお話しいただきたいです。

星:まず、駿台の卒業生として誇らしい限りというのが1番の感想でした。現在の世界の教育トレンドから見ても、腑に落ちるところがいくつもあります。リトリーバルプラクティスというのは脳科学や心理学の研究の中で、人間の脳や心がどういう風に動いて学びが起きているのかを研究した結果、科学的に導き出されたもの。これをしっかり使っていこうというのは現在の世界的な教育のトレンドです。そしてテクノロジーの普及、特に生成AIですね。
これはそれぞれの生徒のニーズに合わせて教えていく個別適応化への方向性を指します。また、日本のみならず、世界全体としての問題である教員不足をテクノロジーで埋めていこうというもの。まさにダイバーシティの考え方のひとつです。3つ目に青少年のメンタル問題へのアプローチ。実は私が「駿台Diverse」を見て、1番心に響いたのはこの部分です。すでに地域にある塾やコミュニティの力を使って、駿台がこれまで築き上げてきたノウハウや質の高い教育を科学に沿ったやり方で届ける。
今までは地方を飛び出して戦って心が強くなる人もいれば、辛い思いをする人もいたわけですから、地元にいながらこういった教育を受けられるというのは、子どもたちのメンタルという部分でも、非常に大きな寄与があると感じました。

では逆にこれまでの日本の教育の強みといったものはあるのでしょうか?

星:すごい強みがひとつありますよ。日本の受験参考書ほど正確な書籍は世界になかなかありません。
誤植があれば直しながら何十年と積み重ねて、ノウハウが凝縮された書籍ですから。「駿台Diverse」はそれを今のトレンドの科学やテクノロジー、メンタルケアの部分とドッキングさせている。それが素晴らしいところです。

対談の様子

それにしても、改めて日本国内の教員不足の問題は本当に深刻ですね。

山畔:年度ごとに先生の成り手が少なくなり、教員になっても数年で退職してしまうケースが見受けられる。現場が疲弊していますね。
その上に少子化の影響があります。例えばそれなりの学力層の高校でも定員を埋めるために勉強が得意な生徒から苦手な生徒までを入学させざるを得ない。これは塾業界でも同じだと思います。そこで画一的に授業をやっても当然、やっていけずに、一人ひとり個別で教えなくてはいけない生徒がたくさんいる。ここに対する現場の先生方からの相談は増える一方です。だから、今はやはり個別最適学習ができる新しいサービスシステムを作り上げるしかないと考えており、その形のひとつが「駿台Diverse」なんです。

星:本当に素晴らしいと思います。これだけ日本の教育が画一的な中で多様性に舵を切るというのは単純なことのようでいて、大変なことです。時代が進み、社会的な価値観も多様化し、子育ても変わってきました。
教育は厳しいだけではダメなんじゃないかと思います。日本だけではなく先進国でもコントロール型のペアレンティングから自立サポート型になってきた。その中で学校だけが全員規律でコントロールしようとしても無理なんですよね。学校という学びの中心がなかなか変われない中、民間から運動を起こしていく。変えられるところから変えていこうという強いエネルギーを感じます。

山畔:私たちは大学受験をメインでやってきましたが、小学校から疲弊しているという現実もあります。知識の定着なんて全然できないと先生がお手上げ状態のような学校がたくさんあるんですよね。だからこそ、低学年から私たちができることがあるはず。学ぶことは楽しいと自信を持たせたいと思い、新しいサービス開発を進めています。星先生はそこにも知見をお持ちですので、ご教授いただけるのは大変ありがたいです。

対談の様子

星:おっしゃる通りだと思います。学びは脳にとって快楽。学んだときや何かできたときにドーパミンが出て満足感を得る。そのドーパミンを脳がまた求めてくるので、それがやる気となるんです。
だから人間というのは生まれた段階ではみんな、学びを求めているわけですね。それなのにどこかで勉強が嫌だな、やる気が出ないという状態になるのはなぜでしょうか。
例えば英語であれば、幼少期、最初に日本語で少し「あいうえお」を学んだ後に、全然違うアルファベットが出てきて楽しいなとか、知らない言葉の音が言えたとか、外国人の先生とコミュニケーションできたとか。
こういう純粋な楽しみやできたという感覚が、高学年から中学校、そして高校と進む中で消えてしまわないように維持させてあげる。できなかったとしても「やればできるんだ」という成長マインドセットを持って学べる環境を小さな頃からしっかり続けてあげるのはとても大事なことだと思います。

最近の子ども達がやる気をなくしてしまう原因はどんなところにあるのでしょうか。

星:日本のみならず世界で1番の原因は競争とテストです。ただこれは社会につきものなのでなくすわけにはいかない。だからどのように子どもの心をサポートしていくかというのが、最近の教育の世界的な最大の関心事だと言えます。大事になってくるのが、人間の心が根本的に求めていると言われる3大ニーズ。
心理学の自己決定理論によればそれは「つながり」「できた・できるという感覚」「自発性」の3つです。人と繋がること、手応え、そして自分の意思を持ってやることですね。誰かに言われてやるとか点数にコントロールされてやるのではなくて、好きなことをやるという感覚です。
公教育が痩せ細ってきている中、「駿台Diverse」はこの心の3大ニーズにしっかりアプローチしている。それが民間から、地域から教育方法の厚みを取り戻していこうという流れを生むと期待しています。

―では最後に受験生へのメッセージもお願いいたします。

山畔:大学受験だけがすべてではありませんから、その先を見据えた進路選択をしてほしいと思います。自分の夢に挑戦していくための環境を選び、その中でしっかり勉強をする。
受験は終わりではなくて、夢の本番の始まりです。人生100年時代と言われているこれからを見据えて、目的意識を持って努力し、学び続けていってほしいというのが私の思いです。

対談の様子

星:私自身が東大に入学した後に燃え尽き症候群のようになってしまった経験がありますので、専務理事のメッセージは本当にもう、まさにその通りです(笑)。今は職業柄、これから若い人たちが身につけていくべきスキルや素養は何かとよく聞かれます。
皆さん、コミュニケーション能力やクリティカルシンキングの力と言われますが、私は必ずしも全員ができなくてもいいと思うんですね。これらは、チームの中で役割分担すればいいことですから。
今、やっぱりそれぞれの個人が持っていなくてはいけない、でも失われつつあるものは「やる気」と「目的意識」だと思います。私自身は受験に関しては間違えた方向で考えてしまいましたが、今も浪人した時の友達もずっと繋がっていて、一緒に仕事をしたりもしています。ネットワークという部分は非常に人生の役に立ちました。
受験というのはひとつの新しい体験であり、チャレンジなんです。その体験の中で「こういう学びがあったな」とか、必ずしも結果ではなく「あの時に習った勉強法は今も使えるな」でもいいですし、「ダメだったけどさらに大きなチャレンジに進みたい」もあるかと思います。
そういう経験こそが受験です。あとはやはり一緒に学んでいる仲間、駿台の先生やメンターの人たちは、今後の人生を見据えても非常に重要になってくる。そういうリソースを今、作り上げているということはぜひ意識していただきたいです。たまには俯瞰的に、この受験は自分に何を与えてくれているのかなという目線も持ちながら取り組んでもらえたらいいと思います。